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壁の向こうの壁
高円寺に、すれ違うこともできないほど狭い階段がある。降りた先はかつてボイラー室だったと思しき空間。天井は結露し、何も始まっていないのに空気が振動している。新橋駅で見かけるようなワイシャツ姿の男が、折りたたみテーブルの向こうに立っている。テーブルの上にはエフェクターペダル、コンタクトマイク、腸を抜かれたラジオ、そして不穏なまでに医療器具じみた何か。男は客を一瞥もしない。観客は15人ほど。コンクリートの壁に背を押し付け、耳栓をしている者もいれば、していない者もいる。
そして、それは始まる。音符でもなく、ビートでもなく、「周波数」として。あまりに低い音は、耳に届くより先に胸郭を揺さぶる。数秒後にはディストーションの津波が押し寄せ、フィードバックがフィードバックを喰い、音の密度がすべてを飲み込む。脳は「音楽」として解析することを諦め、天候として受信し始める。これがノイズだ。日本はこの音楽を借りてきたのではない。完成させ、輸出し、世界中の前衛音楽を「お行儀が良い」に変えてしまったのだ。
「ジャパノイズ」とは何か
「Japanoise(ジャパノイズ)」——1980年代後半に欧米の音楽ジャーナリストが造った造語。1970年代半ばから日本の地下で胎動し、1990年代に凶暴な頂点を迎えたノイズミュージック・アーティストたちの総称である。ルールのあるジャンルではない。覚えるべきコード進行も拍子記号もない。むしろ定義されることを拒絶することで定義される——音を「表現」の機能から引き剥がし、純粋な身体的経験へと変容させる営みだ。
その名簿は、音響過激主義の裏面史そのものである。メルツバウ(秋田昌美、リリース数400枚以上)、非常階段
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